私のじいちゃんの話

私のじいちゃんは、「村の鍛冶屋さん」。
トンテントンテン、ハンマーの音を響かせて、鉄を叩いて手作り一本、頑固な姿を見せてくれていた。

そんなじいちゃんの姿が鍛冶場から消えてから、もう何年になるだろうか。火を見つめる姿も、赤い鉄を打つ厳しい顔も、ばあちゃんを呼ぶ声も、咳も、とても久しいものになってしまった。

幾つもの年月を経て、鍛冶場の様子も随分変わった。
昔は2つあった炉も、奥にあった一つは跡形もなく、砥石も一つを残すのみとなってしまった。
いや、炉の一つでも、砥石の一つでも残っていることの方が不思議なことかもしれない。
家の屋根には煙突が、在りし日の鍛冶屋の面影を残している。

誰の手にも触れられない道具達は、ほこりをかぶりつつも、まだまだしっかりとその存在を誇示しているようにも見える。
きっとじいちゃんの覚え書きだろう、白いチョークで書きなぐられた文字が、今でも黒板がわりの火よけに残されたままだ。

通りに面して据え付けられていた薄水色の陳列棚があった場所も、今ではお人形さんたちが訪れる人を迎えてくれる場所になっている。

火花が散って熱そうで恐かった。
でも、砂鉄がいっぱいで磁石遊びもおもしろかった。
私もふいごで火をおこしてみたかった。
電動ハンマーをガンガンいわせてみたかった。
店番もおもしろかった。
でも、ばあちゃんが振っていたハンマーはちょっと重かった。
焼けた鉄が水に触れて”ジュ”っと音を立てて、蒸気がユラユラしてた。
鉄の色、火の色、いろいろ違うらしいけどよくわからなかった。
悪いことすると、石炭小屋に入れられそうでドキドキしてた。
じいちゃんを頼って、お客さんが来ることが誇らしかった。

『鍛冶場の保存』。いろんな話が出ては飛んでいき、結局、私たちの生活に支障のない程度に縮小し、その断片だけが残っている。
もう火を入れられることはない炉や、回ることはない砥石、鍛冶場の道具達が、本当にあの場所から、そしてこの世からなくなってしまう前に、語ってあげなけらばならないことがあるような気がする。

少しずつ、少しずつでも紐解いて、この場を借りてお話したいと思います。

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